- 人材派遣の基本
派遣の禁止業務とは?禁止理由や罰則、例外業務について解説
社内業務の効率化のために派遣の活用を検討したものの、「禁止業務がある」と聞き、自社が該当するのか、どのような業務内容に注意すべきなのか、具体的に知りたい方も多いでしょう。
派遣社員に依頼できないとされる業務は法律で定められており、違反すると企業の社会的信用を失墜させるうえ、罰せられる可能性もあります。
違反を防ぐためには、派遣の導入が禁止されている業務を、理由とともに正しく理解することが重要です。
本記事では、派遣で一部の業務が禁止されるようになった理由から、具体的な禁止業務、違反した場合のリスク、別の人材活用方法の選択肢まで、わかりやすく解説します。
その採用、スマートにしませんか?
従来の方法では、採用を成功できない時代に入っています。-
☑労働力人口が、構造的に減少している
☑有効求人倍率は、増加の一途をたどっている
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目次
派遣禁止業務とは
派遣禁止業務とは、労働者派遣法によって派遣従事が禁止されている業務のことです。
1999年に「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(以下、労働者派遣法といいます)が改正されるまでは、派遣労働できる業務だけを指定し、その他を禁止するポジティブリスト方式の仕組みが取られていました。
現在では、労働者派遣法と「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行令」で、派遣労働で従事させられない業務を「適用除外業務」として定めています。
これは、禁止する業務だけを指定する、ネガティブリスト方式と呼ばれています。
派遣禁止業務がある理由・背景
派遣禁止業務ができた理由には、以下が関与しています。
- 労働者の雇用安定
- 指揮命令系統の明確化と安全性の確保
- 専門性の高い業務における質の担保
派遣禁止業務に指定されている業務には、その特性上、需要の変動が激しく、雇用が不安定になりやすいものがあり、別の法律で雇用調整制度を設けている場合もあります。
また、危険をともなう業務においては、派遣会社と派遣先企業との間で指揮命令系統が曖昧になると安全管理がおろそかになり、事故のリスクが高まる可能性があります。
例えば、警備業務では、適切な安全対策が取れず労働災害が発生する事態にならないために、警備業法において派遣ではなく警備業者が責任をもって警備労働者の指導を行い、警備先と請負契約を締結することが重要とされました。
さらに、医療関連業務といった専門性の高い職種では、チームにより高度な知識や技術が提供されます。
チーム内でお互いの能力等を把握して行動しなければならないため、派遣の導入が禁止となっています。
派遣が禁止されている5つの業務一覧

派遣社員の活用ができない業務は、主に以下の5つです。
- 港湾運送業務
- 建設業務
- 警備業務
- 病院等における医療関連業務
- 「士業」の関連業務
各業務の定義や禁止理由、派遣禁止の具体例を解説しますので、自社の業務が該当するか確認しましょう。
港湾運送業務
港湾運送業務とは、港湾における船内荷役・はしけ運送・沿岸荷役・いかだ運送・船積貨物の鑑定や検量などの物流業務を指します。
これらは「港湾運送事業法」に規定されており、機械の利用の有無にかかわらず、港湾内で行われる業務が対象です。
派遣で禁止となった理由は、業務の波動性などの特殊性にあります。
港湾運送業務は、景気などに左右される基本的な荷動きの動向による影響に加え、運航スケジュールも、気候や海で発生する自然現象に影響され不安定です。
また、荷役の実施自体も天候に左右される部分があります。
そのため、労働者派遣法とは別に、港湾労働法において、実情を踏まえた「港湾労働者派遣事業」が規定されています。
派遣の活用が禁止されている港湾運送業務の具体例は、以下のとおりです。
- 湾岸と船舶における貨物の積み込みや荷降ろし
- 船舶上における貨物の移動や固定作業
- 船舶に積んだり降ろしたりした貨物の荷造りや荷解き
- 船舶や湾岸における貨物の積み降ろし場所の清掃(船員の居住区域等は除く)
- 港湾倉庫内における貨物の荷解きや仕分け作業
- トラックや鉄道への貨物の積み降ろし(運転業務は除く)
なお、指定港湾は6大港(東京・横浜・名古屋・大阪・神戸・関門)以外にも存在するため、対象については「労働省告示第149号」で確認が必要です。
建設業務
建設業務とは、土木や建築その他工作物の建設・改造・保存・修理・変更・破壊や解体作業、またはこれらの準備に係わる業務のことです。建設工事の現場で直接従事するものに限定されます。
建設業務が禁止される理由は、受注生産や総合生産などの特殊性にあります。
多重の下請関係の中で業務が行われる建設業では、需要の不安定さから、建設労働者の雇用の改善等に関する法律において実情を踏まえた「建設業務労働者就業機会確保事業」が設けられています。
ここで労働者派遣という仕組みが加わると、下請け構造と雇用改善の法律が機能しなくなる可能性があるため、派遣の禁止業務として設定されました。
派遣社員ができない建設業務の具体例は、以下のとおりです。
- ビルや家屋の建築現場における資材運搬、組み立て
- 道路・河川・橋・鉄道などの工事現場における掘削や埋め立て
- 建築・土木工事で行うコンクリート合成や建材加工
- 工事現場内で行う資材・機材の配送
- 壁・天井・床の塗装や補修
- 建具類の固定や撤去
- 外壁への電飾版や看板の設置・撤去
- 配電・配管工事や機器設置
- 工事施行後の現場整理・清掃(内装仕上げ)
- 大型仮設テントや舞台の設置
- 仮設住宅(プレハブ住宅等)の組み立て
- 建造物や家屋の解体
なお、建設現場の事務職員業務や工事の施工管理業務は、建設業務に該当せず、派遣の導入が可能です。
警備業務
警備業務とは、事務所・住宅・興行場・駐車場・遊園地などにおける盗難や負傷を含む事故の発生を警戒し、防止する業務を指します。
警備業務が派遣で禁止される理由は、警備業法上、警備会社と警備先企業が請負契約をして、警備員が警備先に出向という形で業務処理することが求められているためです。
派遣を認めた場合、適正な警備業務実施に問題が生じる可能性があります。
禁止業務の具体例は、以下のとおりです。
- 会場や店舗入場口における手荷物検査
- 盗難等の事故発生を防止・警戒するための、不審者や迷惑者への注意・質問
- 盗難等の事故発生を防止・警戒するための、建造物内や会場内の巡回・巡視
- 混雑場所における雑踏や駐車場等の整理、人や車両の誘導
- 犯罪者の追跡・捕獲業務
- 運搬中の貴重品・金品等への帯同・監視
- 防犯通報に対しての待機
- 建造物内における警備目的での無人の時間帯・状態での常駐(当直、夜間窓口等)
- 「警備室」「警備関係者受付窓口」等の施設への常駐
なお、一見すると該当しない内容でも、繰り返し行われると警備業務とみなされる可能性があるため注意が必要です。
例えば、販売業務で派遣社員が混雑時にレジ前の客に整列をお願いする、受付業務で派遣社員が受付周辺を徘徊する人に声をかけることなどが該当します。
病院等における医療関連業務
病院等における医療関連業務は、医療の質と安全性を確保するために派遣が禁止されている業務です。
その理由は、医療の質の安定に向けて、チーム医療を行ううえで十分な意思疎通・連携をとる必要があるためです。
具体的には、以下のような業務が該当します。

引用:厚生労働省『労働者派遣事業を行うことができない業務は・・・』
医療機関が人材を確保する際は、これらの規定を十分に理解し、適切な方法で人材を確保することが重要です。
「士業」の関連業務
「士業」とは、法律や会計、労務管理等の専門的な知識や資格を必要とする業務を指します。
具体的には、弁護士・外国法事務弁護士・司法書士・土地家屋調査士・建築士事務所の管理建築士などです。
原則、派遣事業は各士業の法律において禁止されている事業です。
これらの業務は資格者個人が依頼者から委託を受けて行うものであり、労働者として指揮命令され遂行するものではないとされています。
派遣禁止業務に従事させた場合の罰則
派遣社員を派遣禁止業務に従事させた場合、企業イメージの低下や取引先への影響などの間接的なリスクの発生に加え、派遣先企業と派遣会社それぞれに「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科されます。
また、違法行為が軽微と判断された場合、厚生労働省は派遣先企業と派遣会社、双方に行政処分または司法処分を即時に行使しないという選択肢もあり、その場合には労働者派遣事業の適正な運営と派遣就業を確保するために、必要な指導・助言を受けることになるでしょう。
なお、派遣社員が厚生労働大臣に申告した場合には、不利益な扱いをしてはいけません。
違反した場合は「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されます。派遣会社においては、事業許可の取消しや事業停止命令、改善命令の対象にもなります。
労働契約申込みみなし制度とは

引用:厚生労働省『派遣元事業主の皆さまへ|労働契約申し込みみなし制度の概要』
派遣社員を派遣禁止業務に従事させると、罰則が科されるのに加え、「労働契約申込みみなし制度」が適用される可能性があります。
労働契約申し込みみなし制度とは、違法派遣を行った派遣先企業に対し、その時点で当該の派遣社員へ労働契約の申込みをしたとみなす制度のことです。
派遣先企業が労働契約の申し込みをしたとみなされた日から1年以内に派遣社員が承諾する旨の意思表示をした場合、派遣先企業と派遣社員間で労働契約が成立します。
制度の対象となるのは、以下のようなケースです。
- 派遣禁止業務への従事
- 無許可の派遣会社からの受け入れ
- 派遣可能期間の超過
- 偽装請負(契約の表題は「請負」「業務委託」等であるが、実質は「労働者派遣」である状態)
労働契約申込みみなし制度が適用されると、派遣先企業は違法状態が終了してから1年間、申込みの撤回ができません。
また、申込みとみなされる労働条件は「違法派遣時点での派遣会社と派遣社員の間に成立している労働条件」と同一になります。
なお、派遣先企業が違法と知らず、さらに知らなかったことに過失がないと判断された場合にはこの制度は適用されません。
派遣禁止業務の例外
派遣禁止業務とされる5業務においても、建設業務、医療関連業務、「士業」の関連業務においては例外が存在します。
それぞれ解説しますので、該当業務で活用できないか自社のケースで考えてみましょう。
建設業務の例外
建設業務であっても、「建設、改造、保存、修理、変更、破壊もしくは解体の作業、またはこれらの作業の準備の作業」に直接従事しない現場事務所の事務員やCADオペレータ、施工管理業務(工程管理・品質管理・安全管理など)は派遣の活用が認められます。
ただし、空き時間に資材置き場の整理や残材片付けなどをさせるのは派遣禁止業務になるため、注意しましょう。
なお、林業における造林作業のうち、地ごしらえと植栽については、建設業務に該当します。その理由は、地ごしらえは建設現場における整地業務と作業内容が類似しているため、植栽は土地の改変が行われるためです。
造林作業の下刈りやつる切り、除伐、枝打、間伐、素材(丸太)生産作業は、派遣禁止業務に該当しないため、派遣を活用しても問題ありません。
医療関連業務の例外
医療関連業務では、例外として、以下のようなケースで派遣が認められています。
- 労働者派遣事業の対象外の施設
- 紹介予定派遣
- 産前産後休業・育児休業・介護休業を取得した労働者の代替業務
- 当該業務に従事する派遣社員の就業先が「へき地」もしくは「地域医療の確保のために厚生労働省令で定める場所」(医師のみ)
それぞれ詳しく解説します。
労働者派遣事業の対象外の施設
医療機関以外とされる以下の施設等では、派遣が認められています。
- 養護老人ホーム
- 特別養護老人ホーム
- 軽費老人ホーム
- 老人デイサービスセンター
- 老人短期入所施設
- 老人介護支援センター
- 障害者支援施設
- 乳児院
- 保育所
- 福祉型障害児入所施設
- 福祉型児童発達支援センター
また、診療所であっても障害者支援施設や救護施設、更生施設、養護老人ホームの中などにある場合には、例外として派遣が可能です。
紹介予定派遣

紹介予定派遣とは、派遣先企業に直接雇用(正社員、契約社員、パート・アルバイトで雇用)されることを前提として行われる派遣形態です。
派遣会社が派遣先企業の採用要件にマッチする人材を紹介した後、派遣先企業による面接を経て、派遣社員として最長6ヶ月勤務します。
派遣期間終了後に双方の合意が取れた場合、社員として採用できる流れです。
医療関連業務で派遣を活用したい場合は、直接雇用も踏まえながら、紹介予定派遣を検討するのも一つの方法です。詳しくは、以下の記事も参考にしてください。
産前産後休業・育児休業・介護休業を取得した労働者の代替業務
産前産後休業・育児休業・介護休業で休む人の代替で派遣している場合には、派遣禁止業務に該当している内容であっても問題ありません。
休業後に復帰する際には、人材派遣が終了となります。
当該業務に従事する派遣社員の就業先が「へき地」もしくは「地域医療の確保のために厚生労働省令で定める場所」
2021年より、医師だけでなく、看護師、准看護師、薬剤師、臨床検査技師、診療放射線技師にも、へき地での派遣が認められました。(令和3年4月1日施行)
へき地とは、離島や過疎地域など、厚生労働省令により指定された地域のことです。地域によっては看護師等の確保が困難で、それを解消する選択肢の一つとして労働者派遣を認める必要性が高いなどの理由により、人材派遣が認められています。
医師の場合には、へき地以外であっても、厚生労働省が「地域における医療確保のために派遣社員を従事させる必要がある」と定めている場所であれば人材派遣の利用が可能です。
「士業」の関連業務の例外
「士業」の関連業務では、公認会計士・税理士・弁理士・社会保険労務士・行政書士等では一部、派遣が認められている業務があります。
公認会計士の一部業務
公認会計士においては、以下2点の条件いずれにも当てはまる場合に派遣可能とされています。
- 派遣会社が監査法人や公認会計士以外(会計コンサルティング業務や財務分析業務)
- 派遣社員が公認会計士法第2条第1項に規定する業務(監査証明業務)を行わない
監査証明業務を行ってしまうと、派遣禁止業務に該当してしまうため、注意しましょう。
税理士の一部業務
税理士では、以下2点の条件を満たすと派遣が認められます。
- 派遣会社が税理士や税理士法人以外
- 派遣社員が派遣先企業の税理士か税理士法人の補助者として業務を行う
ただし、派遣社員は、派遣先企業の「補助税理士」として登録しなければならないとされています。
弁理士の一部業務
弁理士においては、コンサルティングにかかわるものに関して、派遣会社が特許業務法人以外であれば派遣が可能です。(特許出願・権利化業務などは派遣禁止)
ただし、特許庁長官から職業安定局長宛てに留意事項が示されてるため、その業務が適正に実施されるよう留意する必要があります。
社会保険労務士の一部業務
社会保険労務士で派遣が認められるのは、以下2点の条件を満たす場合です。
- 派遣会社が社会保険労務士法人で、そこで働く社会保険労務士が労働者派遣の対象
- 派遣先企業が他の開業社会保険労務士か社会保険労務士法人
社会保険労務士の派遣活用をしたい場合には、まず社会保険労務士法人の派遣会社を探す必要があるでしょう。
行政書士の一部業務
行政書士は、以下の項目が派遣可能な条件になります。
- 派遣会社が行政書士か行政書士法人
- 派遣先企業が他の行政書士か行政書士法人
行政書士の場合、派遣会社と派遣先企業の両方が行政書士または行政書士法人でなければなりません。また、派遣できる業務範囲には制限があります。
派遣禁止業務か判断に迷ったときの対処法

派遣禁止業務に該当するか判断に迷ったとき、自己判断で派遣社員を導入すると法律に違反する可能性が出てきます。
この章では、派遣禁止業務の判断に困らないための具体的な対処法を紹介します。
厚生労働省が公開している解説資料を参照する
まずは、厚生労働省が公開している解説資料を参照するのがおすすめです。
厚生労働省は、労働者派遣法に関するさまざまな情報を公開しており、なかには派遣禁止業務に関する解説資料も含まれています。
派遣先企業が派遣禁止業務を正しく理解し、法令を遵守するのに役立つ情報であるため、以下の資料に目を通しておきましょう。
また、各都道府県労働局のホームページに掲載されている資料を確認するのも、一つの方法です(例:TOKYOはたらくネット『派遣労働ハンドブック』)。
派遣禁止業務に関する情報は、法改正などによって変更される場合もあるため、最新の情報を確認することが重要です。
社労士や弁護士に相談する
厚生労働省の資料を読んで理解を深めたうえで、不明な点が少しでもある場合は、社労士や弁護士に相談することがおすすめです。
社労士や弁護士に相談すると相談料が発生しますが、専門家のアドバイスを受けることで、より適切な対応をとれます。
社労士や弁護士は、労働関係法令や判例に関する専門知識を有しています。
個々のケースに応じて、派遣禁止業務に該当するかどうか、該当する場合にはどのような対応が必要かなど、具体的なアドバイスを受けられるでしょう。
派遣会社に相談する
社労士や弁護士のほか、派遣会社に相談するのも一つの方法です。派遣会社は条件に該当する労働者を派遣する役割があるため、禁止業務についての知識も有しています。
派遣禁止業務に該当する場合の対処法
派遣禁止業務に該当する場合には、代替案を検討しなければなりません。その場合の対処法を紹介しますので、取りうる選択肢を理解しておきましょう。
正社員または契約社員の採用を検討する
派遣禁止業務に該当するときの対処法の一つが、正社員や契約社員の採用です。
直接雇用であれば、派遣禁止業務に該当せず、法的にも問題なく業務を遂行できます。
正社員と契約社員はそれぞれメリット・デメリットがあるため、自社の状況に合わせて適切な雇用形態を選択することが重要です。
雇用形態 | メリット | デメリット |
---|---|---|
正社員 | ・長期的な人材確保が見込める ・人材育成しやすい | ・採用コストや人件費がかかる ・契約解除が難しい |
契約社員 | ・必要な期間だけ雇用できる ・採用コストを抑えられる | ・長期的な視点での育成が難しい ・安定的な人材確保に不向き |
例えば、長期的な視点で人材の確保・育成をしたい場合は、正社員の採用が向いています。
一方、繁忙期など一時的に人手不足を解消したい、特定のプロジェクトに携わる人材を確保したいなどの場合は、契約社員の採用が適しています。
いずれにしても、派遣社員を禁止業務に従事させないよう、もし自社の業務が該当する場合は採用活動を検討してみましょう。
業務委託契約の活用を検討する
採用にかける時間やコストがないなどの理由で、業務をどうしても外部に依頼したい場合は、業務委託契約を検討する方法があります。
業務委託契約とは、企業が特定の業務を外部の企業や個人に委託する契約のことです。
請負契約と委任契約という契約形態があり、委託先企業や個人が、委託された業務を自分の責任と裁量で行い、成果に対して報酬を受け取る仕組みになっています。
業務委託契約と派遣契約の主な違いは、以下のとおりです。
業務委託契約 | 派遣契約 | |
---|---|---|
指揮命令 | なし | あり(派遣先企業から派遣社員) |
責任の所在 | 委託先 | 雇用関係については派遣会社、労働時間の管理や職場の安全衛生管理については派遣先企業 |
仕事の進め方 | 委託先が自由に決める | 派遣先企業が指示する |
報酬 | 成果報酬、時間報酬 | 時間報酬 |
業務委託契約も派遣契約も、行える業務は契約で交わした内容のみです。
ただし、業務委託契約の場合でも、指揮命令や労働時間の管理など、実態が派遣契約と変わらないと判断されると、偽装請負とみなされて労働者派遣法違反となる可能性があります。
業務委託契約を検討する際は、弁護士や社労士などの専門家に相談し、依頼内容をしっかりと確認して契約書に明記するとよいでしょう。
人材派遣と業務委託の違いについて、詳しくは以下の記事で解説しています。
人材派遣と業務委託の違いは?特徴からメリット・デメリット、注意点まで
業務内容の見直し
派遣禁止業務に該当すると判断した場合、派遣社員に依頼する予定だった業務内容の見直しが必要です。
例えば建設現場では、「建設・改造・保存・修理・変更・破壊や解体作業、またはこれらの準備に係わる業務」に直接従事しない、現場事務所の事務員などであれば派遣の活用ができます。
派遣法の趣旨を踏まえ、派遣社員の雇用安定の観点から適切な対応を行うことが重要です。
労働者派遣法における派遣禁止業務以外の禁止事項
人材派遣を活用するうえで、派遣先企業には労働者派遣法の遵守が求められます。派遣禁止業務のその中の一つですが、他にもさまざまな禁止事項が定められています。
なお、労働者派遣法については、以下の記事でわかりやすく解説しているため、あわせて参考にしてください。
派遣に関するすべての禁止事項を把握し、コンプライアンスを徹底しましょう。
日雇い派遣の原則禁止
日雇い派遣とは、30日以内の契約期間で行われる労働者派遣で、2012年の労働者派遣法改正により、原則禁止となりました。
その理由は、必要な雇用管理がなされず、派遣社員の保護に欠けると判断されたためです。
ただし、以下のように、一定の条件を満たす場合には例外的に日雇い派遣が認められます。

引用:厚生労働省『日雇派遣の原則禁止について』
短期間での派遣を活用したい場合、派遣先企業は以下の点に注意が必要です。
- 例外的に認められる業務に該当するかを確認する
- 労働者の年齢や収入状況を確認する
- 適切な労務管理と安全衛生を確保する
日雇い派遣の原則禁止は、労働者の権利を守り、安定した雇用の促進を目的としています。派遣先企業は法令を遵守しつつ、適切な形での人材活用が求められます。
日雇い派遣については、以下の記事も参考にしてください。
日雇い派遣とは?禁止理由や単発バイトとの違い、例外ケースを解説
二重派遣の禁止

二重派遣とは、派遣社員を、派遣先企業がさらに他の企業に派遣する行為です。賃金が中間搾取されるリスクから労働者を守るために、職業安定法および労働基準法で禁止されています。
禁止される主な理由は、労働者の雇用責任が不明確になるうえ、給与や労働条件が不当に引き下げられる可能性があるためです。
具体的には、以下のようなケースが二重派遣に該当します。
- A社(派遣会社)からB社(派遣先企業)に派遣された労働者を、B社がさらにC社に派遣
- 派遣先企業が、受け入れた派遣社員を自社のグループ会社に派遣
二重派遣は法律違反になるため、以下の罰則が科せられます。
違反法令 | 罰則 |
---|---|
職業安定法第44条 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
労働基準法第6条 | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
派遣先企業は、これらの罰則を避けるためにも、二重派遣に該当する行為は避けなければなりません。派遣社員を受け入れる際は、直接指揮命令を行い、別の企業への再派遣は絶対にしないようにしましょう。
二重派遣については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
離職後1年以内の元従業員の派遣受入禁止

労働者派遣法では、自社を離職してから1年以内の労働者を、派遣社員として勤務させることを禁止しています。この規定の目的は、労働者の待遇悪化を防ぐことです。
禁止の対象は、企業と直接雇用の関係にあった労働者であり、雇用期間や雇用契約の形態は問いません。正社員や契約社員、パート・アルバイトなどが該当します。
ただし、60歳以上の定年退職者は、雇用機会の確保が特に困難であるため、例外として認められています。
離職後1年以内で派遣社員として受け入れてしまった場合、法的な罰則はありません。しかし、是正勧告を受ける恐れはあるため、受け入れ時には十分な確認を行い、法令遵守に努めてください。
派遣先企業による特定行為

特定行為は、派遣先企業が特定の派遣社員を、派遣会社に指名して依頼する行為です。この行為は、労働者派遣法で原則として禁止されています。
その理由は、派遣先企業と派遣社員の癒着を防ぐためです。
派遣社員にとっては、派遣会社と派遣先企業それぞれとの雇用関係が生じてしまい、職業安定法で禁止する「労働者供給事業」に該当する可能性があります。
特定行為の具体例は、以下のとおりです。
- 派遣先企業が派遣会社に特定の人物の派遣を要求
- 派遣先企業が派遣社員に事前面接を実施
- 派遣先企業が派遣社員の履歴書を要求
- 派遣先企業が派遣会社に特定の人物のみの候補者リストを要求
派遣先企業は、特定の個人を指名しての派遣依頼ができません。しかし、業務に必要なスキルや経験を明確にしたうえで、派遣会社に人材の選定を任せることは可能です。
詳しくは以下の記事で解説しています。
3年ルールによる受け入れ期間の制限
派遣社員の受け入れには「3年ルール」と呼ばれる期間制限があります。
2015年の労働者派遣法改正によって、派遣社員が同じ事業所で3年を超えて働くことは、基本的にできなくなりました。
このルールは、派遣先企業と派遣社員個人の両方に適用されます。
同一の事業所で派遣社員を受け入れられる期間は3年が上限です。
ただし、派遣先事業所の過半数労働組合等から意見を聞いたうえで、3年を限度として期間が延長できる場合もあります。

一方、事業所単位の派遣可能期間が延長された場合でも、同一の派遣社員を派遣先企業の事業所における同一の組織単位(課など)では3年を超えて受け入れることはできません。
別の課やグループで勤務する場合は、継続可能です。

なお、以下のような場合には、3年ルールの適用外となります。
- 派遣会社に無期雇用中の派遣社員
- 60歳以上の派遣社員
- 終了日が明確な有期プロジェクト業務に派遣
- 日数限定業務に派遣
- 産前産後休業・育児休業・介護休業等を取得する労働者の業務に派遣
ルールを理解して適切に運用することで、法令を順守しつつ効果的な人材活用ができます。
3年ルールについては、以下の記事も参考にしてください。
派遣法の3年ルールとは?企業がとるべき対策と例外ケースについて
派遣禁止業務に関してよくある質問
派遣禁止業務は、該当すると労働者派遣法違反となる重要な事項です。
この章では、派遣させてはならない業務と、誤って従事させた場合の罰則について解説します。
派遣社員にやらせてはいけない業務は何ですか?
派遣社員にやらせてはいけない業務は、港湾運送業務、建設業務、警備業務、病院等における医療関連業務、「士業」の関連業務です。
ただし、建設業務、医療関連業務、「士業」の関連業務においては例外もあります。
誤って派遣禁止業務に従事させてしまった場合はどうなりますか?
派遣社員を派遣禁止業務に従事させてしまった場合、派遣先企業と派遣会社それぞれに「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科されます。企業イメージの低下や取引先への影響などの間接的なリスクも発生するでしょう。
また、「労働契約申込みみなし制度」が適用され、違法派遣を行った時点で、派遣先企業が当該派遣社員へ労働契約の申込みをしたとみなされます。
まとめ
代表的な派遣禁止業務は、港湾運送業務・建設業務・警備業務・病院等における医療関連業務・「士業」の関連業務です。
違反により、派遣先企業には企業イメージの低下や、取引先への影響などの間接的なリスクの発生に加え、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
自社の業務が該当するか不安な場合には、社労士・弁護士などの専門家や、派遣会社に確認するのも一つの方法です。
派遣社員の採用を検討するうえでの注意点を明確にし、法律を守りながら適切な受け入れを進めましょう。
その採用、スマートにしませんか?
従来の方法では、採用を成功できない時代に入っています。-
☑労働力人口が、構造的に減少している
☑有効求人倍率は、増加の一途をたどっている
☑中小企業の求人倍率は、大手企業の15倍に
監修者
緒方瑛利(ロームテック代表)
プロフィール
1989年北海道むかわ町生まれ。民間企業に入社後、総務・IR広報業務に従事したのち経済団体に転職。融資や創業相談、労働保険事務組合を担当し2019年に社会保険労務士試験に合格。2020年にITに強い社労士事務所としてロームテックを開業。社労士向けのエクセルセミナーや労働保険社会保険に関する情報を発信している。