- 人材派遣の基本
日雇い派遣とは?禁止理由や単発バイトとの違い、例外ケースを解説
予測困難な繁忙期への対応や突発的な欠員補充に頭を悩ませている人事担当者にとって、日雇い派遣は魅力的な選択肢に思えるでしょう。
日雇い派遣は、2012年の労働者派遣法改正により原則として禁止されていますが、特定の条件下では例外的に認められており、適切な活用により効果的に人材不足を解消できる可能性があります。
本記事では、日雇い派遣の概要や原則禁止とされている理由、例外ケース、受け入れる際の留意点・ポイントを詳しく解説します。
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日雇い派遣とは
厚生労働省の定義では、日雇い派遣とは「日々または30日以内の期間を定めて雇用する労働者」を派遣することです。短期間の人材ニーズに対応する労働者派遣の一形態であり、簡単にいうと派遣期間が30日以内の人材派遣を指します。
その短期的な性質から「スポット派遣」「スポット」と呼ばれる場合もあります。
2007年には、短期派遣労働者のうち1日単位の「日雇派遣労働者」が84%を占めていましたが、2012年の労働者派遣法改正により原則禁止となりました(一部例外あり)。
この規制は、日雇い派遣社員の雇用の安定と適切な雇用管理を確保することを目的としています。
禁止されているのは30日以内の「派遣」のみであり、短期アルバイトやパートなどはその限りではありません。
日雇い派遣が原則禁止されている理由
日雇い派遣は2012年の労働者派遣法改正により原則禁止となりましたが、この規制が導入された背景には、日雇い派遣社員の権利保護と雇用の安定性確保という重要な意図があります。
そもそも、法改正の大きなきっかけとなったのが、2007〜2008年頃に社会問題化した「データ装備費」問題です。
これは、一部の派遣会社が「データ装備費」という名目で派遣社員の賃金から強制的に費用を徴収していたことが顕在化し、裁判にまで発展した出来事です。
一部で派遣社員の適切な雇用管理がなされていない状況を受け、2008年9月24日の労働政策審議会の建議で、「日々または30日以内の期間を定めて雇用する労働者について、原則、労働者派遣を行ってはならないものとすることが適当である」と提言されました。
その後、2012年、労働者派遣法が改正され、日雇い派遣が原則禁止となっています。
日雇い派遣の受け入れを検討している企業は、この背景や目的を正しく認識しておく必要があります。
日雇い派遣に違反した場合
日雇い派遣に違反した場合、派遣先企業は指導・助言の対象となる可能性があります。それでも改善がみられなければ、勧告や企業名の公表が行われる場合もあるでしょう。
企業の信頼失墜から事業に影響を生じてしまう恐れがあるため、派遣先企業は、日雇い派遣について正しい知識を身につけることが重要です。
日雇い派遣と短期バイト(単発バイト)の違い
日雇い派遣と短期バイト(単発バイト)は、短期間の就労という点で似ていますが、雇用主や適用される法令などが異なります。
違い | 日雇い派遣 | 短期バイト (単発バイト) |
雇用主 | 派遣会社 | 就業先企業 |
条件 | 原則禁止だが、例外もあり | 労働契約を結ぶだけで特別な条件はない |
法令 | 労働基準法、労働者派遣法 | 労働基準法 |
雇用契約を結ぶのは、日雇い派遣が派遣社員と派遣会社、短期バイト(単発バイト)が就業先企業です。
アルバイト・派遣ともに労働基準法が適用されますが、派遣の場合には加えて労働者派遣法も適用されます。日雇い派遣禁止の原則は、この労働者派遣法(第35条4項の1)に基づいたものです。
労働者派遣法については、以下の記事で詳しく解説しています。
なお、日雇い派遣は原則禁止の中で、例外的に対応できる条件があります。一方、単発バイトは労働契約を結ぶだけで特別な条件はなく、雇用保険の適用外となる昼間学生も問題なく就業可能です。
人材派遣の仕組みについては、以下の記事も参考にしてください。
日雇い派遣が認められる例外ケース
原則として禁止されている日雇い派遣ですが、労働者の権利保護、雇用の安定性確保という目的に反しないケースでは、例外的に認められています。
例外ケースは、大きく分けて以下2パターンです。
- 雇用機会の確保が特に困難な労働者等を派遣する場合
- 日雇い派遣社員の適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがないと認められる業務(日雇い派遣の例外業務)に派遣する場合
日雇い派遣が例外となる労働者

特定の属性をもつ労働者については、雇用機会の確保が特に困難であるなどの理由から、日雇い派遣が認められています。具体的には、以下のような条件を満たす労働者です。
- 60歳以上の者
- 雇用保険の適用を受けない学生(いわゆる「昼間学生」)
- 副業として従事する者(生業収入が500万円以上の者に限る)
- 主たる生計者以外の者(世帯収入が500万円以上の者に限る)
例外業務に該当する場合や、上記の条件を満たす労働者を雇用する場合には、日雇い派遣を利用できる可能性があります。日雇い派遣を検討している人事担当者は、これらの例外ケースを理解したうえで、日雇い派遣の活用を検討するとよいでしょう。
例外1. 60歳以上の者
労働者が60歳以上の場合、日雇い派遣という選択肢をとることが可能です。
過去に「60歳以上」に該当すると確認している場合には、再確認は必ずしもしなくてもよいとされています。
例外2. 雇用保険の適用を受けない学生(いわゆる「昼間学生」)
労働者が学校教育法の学校(専修学校、各種学校を含む)の学生または生徒(定時制を除く)の場合も、日雇い派遣が可能です。
数週間前に「昼間学生」に該当すると確認がとれている場合には、退学などで要件を満たさなくなったことが明らかである場合を除き、必ずしも再確認しなくてもよいとされています。ただし、年度替わりの時期などのタイミングでは再確認が必要です。
例外3. 副業として従事する者(生業収入が500万円以上の者に限る。)
主な業務の収入が500万円以上で、副業として働く労働者も日雇い派遣の例外ケースに該当します。
標準生計費の2倍程度の年収があれば、「生活のためやむを得ず日雇派遣の仕事を選ぶことのない水準」であるとの認識のもと、この水準を年収500万円としており、「副業として従事する者」と「主たる生計者以外の者」については、年収500万円以上の者に限り、例外的に日雇派遣に従事することができることとされている。
引用:厚生労働省『日雇派遣の原則禁止についてp.4』
「収入」とは、税金や社会保険料の控除前のことです。
例えば、3つの業務を掛けもちしており、それぞれの業務収入が300万円、170万円、30万円である場合、これらを合算すると500万円になります。しかし、これは主な業務の収入が500万円以上ではないため、例外要件を満たすことはできません。
例外4. 主たる生計者以外の者(世帯収入が500万円以上の者に限る。)
世帯収入が500万円以上であり、配偶者などの収入によって生計を維持する労働者も、日雇い派遣が認められる要件を満たします。
例えば、生計を一にする世帯に3人の稼得者がいて、世帯収入に占める収入割合が40%、30%、30%となっている場合には、3人全員が「主たる生計者でない者」に該当すると判断してよいとされています。
日雇い派遣の例外業務
一部の専門的な業務については、日雇い派遣社員の適正な雇用管理に支障を及ぼす恐れが少ないと認められるため、日雇い派遣が許可されています。
例外業務には、以下のようなものが含まれます。
○ ソフトウェア開発 ○ 機械設計 ○ 事務用機器操作 ○ 通訳、翻訳、速記 ○ 秘書 ○ ファイリング ○ 調査 ○ 財務処理 ○ 取引文書作成 | ○ デモンストレーション ○ 添乗 ○ 受付・案内 ○ 研究開発 ○ 事業の実施体制の企画、立案 ○ 書籍等の制作・編集 ○ 広告デザイン ○ OAインストラクション ○ セールスエンジニアの営業、金融商品の営業 |
日雇い派遣を受け入れる際の留意点・ポイント

原則として禁止されている日雇い派遣だからこそ、受け入れる際にはいくつかの留意点があります。
受け入れる際のポイントを把握して、法令違反とならないよう注意しましょう。
「日雇派遣労働者の雇用の安定等を図るために派遣元事業主及び派遣先が講ずべき措置に関する指針」を把握する
日雇い派遣の受け入れを検討する際は、必ず厚生労働省の「日雇派遣労働者の雇用の安定等を図るために派遣元事業主(派遣会社)及び派遣先が講ずべき措置に関する指針」の内容を把握しておきましょう。
この指針は日雇い派遣社員の権利保護と適切な雇用管理を確保するための重要なガイドラインであり、大きく分けて以下のような項目で構成されています。
- 雇用の安定
- 就業条件の確保
- 労働・社会保険の適用促進
- 就業条件等の明示
- 教育訓練の機会確保
- 法令周知
- 安全衛生の確保措置など
この指針では、派遣会社と派遣先企業それぞれの立場で講ずべき措置が示されています。
例えば、派遣先企業には就業場所の定期的な巡回や就業状況の確認、派遣会社には適切な保険加入手続きや就業条件の明示、教育訓練の実施などが求められています。
これらは日雇い派遣労働者の適切な処遇と安全な就業環境を確保することを目的としている指針であるため、派遣先企業は指針内容を念頭に置き、派遣会社と協力しながら適切な運用を心がけることが重要です。
例外事由に該当するか調べる
日雇い派遣は法律により原則禁止とされていますが、一部の業務、または特定の属性に該当する方は例外となります。そのため、日雇い派遣を検討している派遣先企業は、例外事由に該当するかを事前に調べる必要があります。
厚生労働省の「日雇派遣の原則禁止について」でも確認できます。
人材要件を明確にする
人材派遣を活用する際は、あらかじめ人材要件を明確にすることが重要です。当初は日雇い派遣を検討していても、人材要件を明らかにすると、他の形態が最適であると判明する可能性があります。
実際、日雇い派遣は柔軟な人材確保が可能であるメリットがある一方、十分な教育訓練を行えず、業務の質が低下してしまうというデメリットも考えられます。
そのため、継続的に日雇い派遣を活用するケースでは、短時間での就労が可能な案件で継続的な派遣就労する「時短派遣といった他の形態が適している可能性があるでしょう。
時短派遣であれば、一定期間、同じ人材を継続的かつ必要最小限の労働時間で活用でき、日雇い派遣以上に業務の質の向上や効率化が期待できます。
時短派遣については、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
人材要件を明確にし、自社のニーズと各派遣形態の特徴を照らし合わせることで、最適な人材活用方法を選択できます。
人材戦略においては、日雇い派遣に限らず他の派遣形態も含めて幅広く検討し、より効果的な人材活用の方策を探ることが重要です。
日雇い派遣に関してよくある質問
日雇い派遣は原則禁止である方法であり、活用を検討するにあたりさまざまな疑問が聞かれます。
この章では、よくある質問として、日雇い派遣が認められる条件と違反した場合の罰則について解説します。
日雇い派遣が認められる条件はありますか?
日雇い派遣が認められるのは、例外業務もしくは、例外の状況に該当する労働者が従事する場合です。
それ以外は法令違反となるため、状況と照らし合わせて十分に確認することが重要です。
日雇い派遣に違反したらどうなりますか?
日雇い派遣に違反した場合、派遣先企業には行政指導や助言が入る可能性があります。
適切な対応が取れないと、勧告や企業名の公表などの措置につながる恐れもあるため、派遣先企業は違反内容に該当しないよう十分な注意が必要です。
まとめ
日雇い派遣とは、30日以内の短期間で労働者を派遣する形態です。2012年の法改正により、労働者保護の観点から原則として禁止されています。
例外的に認められるのは、ソフトウェア開発や通訳などの専門的業務、または60歳以上の方や学生など特定の属性をもつ労働者の場合に限られます。
短期的な人材ニーズへの対応は、多くの企業にとって重要な課題です。日雇い派遣の活用が難しい企業は、短期の時短派遣やプロジェクトに合わせた派遣活用を検討しましょう。
人材派遣の悩みについて、お気軽にご相談ください
はじめての派遣で、こんな悩みを抱えていませんか?- 即戦力を早く、安く見つけたい
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監修者
村井真子(村井社会保険労務士事務所)
プロフィール
社会保険労務士・キャリアコンサルタント。経営学修士(MBA)。家業の総合士業事務所にて実務経験を積み、2014年愛知県豊橋市にて開業。LGBTQアライ。セミナー講師、コラム執筆にも取り組んでおり、現在労務顧問など160社以上の関与先を持つ。著書に『職場問題グレーゾーンのトリセツ』。