- 人材派遣の基本
派遣特定行為とは?禁止理由や具体例、抵触を避けるポイント
派遣特定行為とは、派遣先企業が派遣社員の面接や選考をする行為のことで、労働者が不利益を被らないよう法律で禁止されています。違反してしまうと、行政指導や企業名の公表といったペナルティが課される可能性があるため、十分に注意しなければいけません。
とはいえ、具体的にどのようなことをしてはいけないのか、わからない場合もあるでしょう。
本記事では、派遣先企業の担当者が派遣特定行為を正しく把握し適切に判断できるよう、具体例や違反事例を取り上げながらわかりやすく解説します。
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目次
派遣特定行為とは?
派遣特定行為とは、派遣先企業が派遣会社から紹介された派遣社員に対して行う面接や選考など、派遣社員を特定する行為のことです。指針や管轄行政の資料では「特定目的行為」とも呼ばれます。
派遣特定行為は労働者派遣法によって禁止されています。
労働者派遣(紹介予定派遣を除く。)の役務の提供を受けようとする者は、労働者派遣契約の締結に際し、当該労働者派遣契約に基づく労働者派遣に係る派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないように努めなければならない。 引用:e-Gov法令検索『労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律 第26条6項』 |
具体的には、「派遣に先立ち、派遣社員の面接をすること」「派遣会社に派遣社員の履歴書の送付を求めること」「受け入れの対象を若年者のみとすること」などが挙げられます。
とはいえ、厚生労働省の「労働者派遣法施行状況調査結果(個人に対する調査)」(調査機関:令和2年2月6日~10日)によれば、2019年以降の派遣社員の中で「派遣会社または派遣先企業から指示を受けて、事前に派遣先企業との面接を受けた人」は17.0%、「派遣会社または派遣先企業から、派遣先企業に履歴書や職務経歴書を送るように言われた人」は6.1%、「派遣先企業から『若年者に限る』などの指定があったと派遣会社に聞いた人」は5.6%とされています。
派遣特定行為は法律で禁止されているものの、一定の割合で起きているのが実情です。
派遣特定行為が禁止されている理由・背景
派遣特定行為が禁止されている理由は、派遣社員との雇用関係は派遣会社にあり、派遣先企業と派遣社員の間には指揮命令関係しかないためです。派遣社員のスキルや経験を評価し、派遣を決定する役割を担えるのは雇用主である派遣会社であり、派遣先企業にその権限はありません。
派遣先企業が派遣社員を特定する行為を行うと、派遣先企業と派遣社員の間にも、雇用関係が成立すると判断され、労働者供給事業に該当してしまう可能性があります。
労働者供給事業とは、労働者を供給することを生業とする行為で、労働者の賃金が不当に搾取される(中間搾取)おそれから、職業安定法で禁止されている事業です(労働組合等が厚生労働大臣の許可を受けた場合を除く)。
また、派遣特定行為は、派遣社員の就業機会が不当に狭められるなどのおそれもあります。
派遣特定行為の具体例
派遣特定行為は禁止されているにもかかわらず、一定の割合で発生しています。
どのような行為が該当するのか詳しく解説しますので、気づかぬうちに違反しないよう確認しておきましょう。
事前面接の要請・実施を行う
派遣会社から紹介された派遣社員に対して、就業前に面接を行うことは派遣特定行為にあたります。
面接ではなく、派遣社員の就業に関する不安を軽減するために行う職場見学については、派遣社員が希望をした場合に限り設けることが可能です。
履歴書や職務経歴書の提出を求める
通常の採用活動では、応募者の経歴やスキルを把握するために履歴書や職務経歴書の提出を求めることが一般的ですが、人材派遣においては派遣特定行為にあたります(応募者に派遣社員として働いた期間があっても、履歴書や職務経歴書の提出を求めることはできません)。
参考:【履歴書】派遣社員期間の書き方とは?パターン別の記載方法を紹介
なお、派遣社員の個人情報が特定できない内容(スキルや取得資格のみ記載)でまとめられたスキルシートについては、提出を希望できます。
年齢や性別を限定する
派遣先企業が派遣会社に対して、特定の年齢や性別の派遣社員を求めることも派遣特定行為に該当します。職業安定法では、「何人も人種、国籍、信条、性別、社会的身分などを理由に職業紹介や職業指導などについて差別的な取り扱いを受けることがない」とされています。
派遣先企業は、この法の理念を念頭に置いたうえで必要な人材像を決定し、派遣会社に伝える必要があります。
個人情報を聞き出す
派遣先企業が、派遣社員の個人情報を聞き出すことも派遣特定行為にあたります。派遣会社に問い合わせる他、職場見学で派遣社員本人に聞くこともしてはいけません。
個人情報は、氏名・年齢・最寄り駅・家族構成・世帯年収・学歴などです。「前の会社を辞めた理由」「派遣社員を選んだ経緯」といった、業務遂行能力とは関係のない内容や個人の思想信条を聞くのも派遣特定行為です。
適性検査(SPI)や筆記試験を実施する
適性検査(SPI:Synthetic Personality Inventory)や筆記試験の実施も、派遣社員の選考とみなされるため派遣特定行為に該当します。機器を操作する職種の場合、試しに機器を操作させることも事前面接として禁止されている行為にみなされる場合があります。
合否を通達する
派遣先企業が、派遣社員に対して合否を伝えることも派遣特定行為に該当します。
派遣の決定権があるのは、雇用主である派遣会社のみです。職場見学の際に、派遣先企業の社員が合否に関して発言しないよう注意しましょう。
一度受け入れていた派遣社員を指名する
派遣先企業としては、派遣社員を受け入れる際に、前に受け入れたことのある派遣社員のほうが自社の雰囲気や業務に慣れている点から安心かもしれません。しかし、特定の派遣社員を指名することは派遣特定行為にあたります。
派遣特定行為に抵触した場合の罰則
法律で禁止されている派遣特定行為には、さまざまな罰則が設けられています。
まず、派遣特定行為をしたことで労働者派遣法に抵触すると、派遣先企業は行政指導の対象となり、企業名の公表などの処分を受ける可能性があります。
派遣会社も行政指導を受け、場合によっては労働者派遣事業の停止、許可の取り消しなどの処分が下されるでしょう。
また、労働者供給事業とみなされると、職業安定法違反として、派遣先企業には1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されることがあります。これは派遣会社も同様です。
上記のリスクを避けるために、派遣先企業は派遣特定行為に関する正しい知識をもち、派遣会社と連携しながら適切な対応をとることが重要です。
派遣特定行為の指導事例
厚生労働省によれば、2018年度に都道府県労働局が行った、派遣先企業の特定行為に対する行政指導は100件にのぼります(参照:厚生労働省『特定目的行為の禁止について p.4』)。
例えば、派遣先企業Aは、派遣会社に対して業務遂行能力に関係のない情報(派遣社員の氏名・性別・生年月日など)が記載されたプロフィールシートと呼ばれる書類を依頼していました。これが派遣特定行為につながるおそれがあると判断され、文書による改善指導を受けています。
また、派遣先企業Bでは、派遣社員の同意なく派遣会社から履歴書を手に入れ、職場見学時にそれをもとに派遣社員に対して経歴を聞き出すことを常態的にしていました。派遣特定行為をしないように努めているとはみられないという理由から、文書による改善指導を受けています。
なお、この事例では、派遣会社も同様の文書指導を受けました。
派遣特定行為に抵触せずに最適な人材を受け入れるには?
派遣特定行為が禁止されていると、「自社に最適な人材を受け入れるのは難しいのではないか」と感じる人もいるでしょう。
この章では、労働者派遣法や職業安定法のルールや理念を遵守しながら、自社の希望する人材を受け入れることができる方法を解説します。具体的な方法を把握して、人材派遣の活用に役立てましょう。
派遣会社と密にコミュニケーションを取る
人材派遣においてどのような派遣社員を派遣するかは、雇用主である派遣会社が決定します。
面接や選考ができない派遣先企業は、派遣会社から最適な人材の紹介を受けられるよう、派遣会社に「業務内容」「必要な人材像」「職場環境」を明確に伝えることが重要です。
例えば、営業事務であれば、以下のような情報を具体的に伝えましょう。
業務内容の項目 | 具体例 |
業務内容 | 業務内容は営業担当者のサポートで、見積書・請求書作成、顧客データ入力、電話・メール対応などです。Excelを使用したデータ集計やPowerPointを使用した資料作成もお願いしたいと考えています。 |
就業時間や休日 | 就業時間は9〜18時(休憩1時間)です。残業は月に10時間程度で、繁忙期にはもう少し増える可能性があります。 |
人材像の項目 | 具体例 |
必要なスキル | ExcelでVLOOKUP関数やSUM関数を使った集計表作成、PowerPointで簡単な資料作成、Wordで書式設定をした文書作成ができるレベルを想定しています。また、取引先との電話やメール対応があるため、ビジネスマナーを踏まえたコミュニケーション能力も求めています。 |
必要な経験 | 営業事務経験者はもちろん歓迎ですが、2年以上顧客対応のご経験があれば、業界未経験でも問題ありません。 |
求める人物像 | 明るく、周囲と円滑にコミュニケーションを取れる方、自ら考え行動できる方、正確に業務をこなせる方を求めています。例えば、わからないことがあれば積極的に質問する、ミスに気づいたら自ら報告・修正するなど、責任感をもって業務に取り組める方を歓迎します。 |
職場環境の項目 | 説明 |
職場の雰囲気 | 服装はオフィスカジュアルです。部署内では私服で働いている社員も多いです。 |
チーム構成や人間関係 | 30~40代の社員が多い活気のあるチームです。チームワークを重視しており、困ったことがあればお互いにサポートし合う雰囲気があります。 |
教育体制 | まずは先輩社員がOJTで業務を教える体制となっています。教育状況を見て、研修によるフォローも実施予定です。 |
その他 | オフィスは広々としており、休憩スペースも完備されています。 |
派遣会社に伝える際には、箇条書きや表などを活用して、わかりやすく整理すると効果的です。
特に「必要な人物像」「職場環境」については、具体的なエピソードなどを交えると、イメージがより伝わりやすくなります。
また、人材派遣において疑問や不安が生じたときは、派遣会社にアドバイスや提案をすぐに求めることも重要です。
曖昧なまま独自の判断で進めないことが、派遣社員のスムーズな受け入れにつながります。
スキルシートを有効活用する
希望の派遣社員を受け入れたいときは、スキルシートも有効活用しましょう。
スキルシートとは、候補者がどのような経歴をもっているか、どのようなスキルや資格を保有しているかをまとめた書類で、あくまで派遣先企業と派遣社員の就業開始後のミスマッチを防ぐために、業務遂行に必要な能力の有無を確認するものです。
氏名や年齢などの個人を特定する情報は記載されていません。
【スキルシート例】
職務経歴 | ||
○○月○○日 | 小売業 | 【一般事務】 データ入力、集計、電話応対、備品管理 |
○○月○○日 | 不動産販売 | 【経理】 会社の資産管理、予算管理、部門ごとの経費精算 |
OAスキル | ||
Word | 文章入力 / 文字装飾 / 書式設定 / 印刷(余白、頁設定)/ グラフの作成 / オブジェクト挿入 / 図形描画 / リンク貼付 / ラベル作成 | |
Excel | データ入力 / セルの書式設定 / 罫線、表作成 / 四則演算 / 関数(SUM、AVE)/ グラフ作成 / 図形描画 /シート操作(コピー、作業グループ)/関数(IF、COUNT、VLOOKUP)/オブジェクト挿入 | |
PowerPoint | 文字入力 / スライド作成 / スライド操作(複製)/ 図形描画 / 表挿入 / オブジェクト挿入 / スライド表示 / アニメーション設定 / リンク貼付 | |
プログラミング | Python | |
資格 | ||
簿記1級 / FP2級 / 中学・高校教員免許 / 普通自動車免許 |
派遣先企業はスキルシートを派遣会社から取得して確認することで、派遣社員のもつスキルが自社が求めている内容に沿っているかを把握することが可能です。
ただし、スキルシートは派遣社員が派遣会社に登録するときに作るものであり、基本的には企業向けの内容になっていません。
自社の業務に直接関係のない情報が含まれている場合もあるため、求めるスキルや経験、資格について派遣会社に聞きながら重点的に確認しましょう。
スキルシートから読み取れない部分は、職場見学で派遣社員に直接ヒアリングする方法が一般的です。
職場見学を実施する
職場見学の実施も、派遣先企業が最適な人材を受け入れるための有効な手段です。
職場見学とは、就業を希望する派遣社員に、事前に自社を見学してもらう機会のことです。
派遣社員にとっては就業先の雰囲気や業務内容を詳しく知れる、派遣先企業にとっては派遣社員の保有しているスキルや資格の内容を本人から直接聞けるメリットがあります。
ただし、職場見学は、就業を希望する派遣社員からの希望がないかぎり実施できません。
また、職場見学時に、派遣社員に対して以下のような質問や発言をすると、派遣特定行為とみなされるため注意が必要です。
派遣特定行為とみなされる可能性のある質問や言動 | 具体例 |
業務遂行とは関係のない質問 | ・これまで働いてきた会社はどこか ・退職した理由は何か ・自社での就業を希望した理由は何か |
個人情報に関する質問 | ・年齢はいくつか ・自宅はどこか ・結婚しているか ・世帯年収はどれくらいか ・どこの大学を出ているのか |
他の候補者への言及や採用の決定権があるような発言 | ・他にも候補者がいる ・あなたに仕事を依頼したいと考えている ・後ほど採用の合否を伝える |
職場見学は「あくまでも派遣社員と直接コミュニケーションを取り、就業後の不安を軽減するためのもの」であることを踏まえて臨みましょう。
職場見学については、以下の記事でも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
【企業向け】職場見学とは|当日の流れや注意点、NG質問例を解説
紹介予定派遣を検討する
紹介予定派遣とは、一定の派遣期間(最長6カ月)を経た後に直接雇用することを前提に派遣する形態です。
派遣先企業による派遣特定行為は禁止されていますが、「将来的に直接雇用すること」が目的の紹介予定派遣であれば、事前の書類選考や面接ができます。
現時点で直接雇用を視野に入れているのであれば、ぜひ活用してみましょう。
ただし、実施するときは以下のような注意点があります。
- 実施できるのは紹介予定派遣を希望している派遣社員のみ
- 実施するときは派遣先管理台帳にその旨を記載
- 就業前に直接雇用した際の就業条件を提示しなければならない
- 派遣期間が終了する日の1カ月前までに、直接雇用の可否を決定して通知する必要がある
紹介予定派遣を検討する際は、ルール違反にならないよう派遣会社とよく相談しながら進めることが肝要です。
人材派遣を活用する際には、派遣特定行為をはじめ、労働者派遣法で禁止されている事項がいくつかあります。このような事項に不安がある場合には、ぜひスマートキャリアをご利用ください。
注意すべき点をわかりやすくお伝えするとともに、自社にピッタリの即戦力人材をスピーディに派遣いたします。
派遣特定行為でよくある質問
法律で禁止されている派遣特定行為には、抵触しないようさまざまな質問が寄せられます。
この章では、職場見学の人数や、職場見学のときに直接派遣社員に質問できるのかについて解説します。具体的な状況での対応を把握して、法令遵守に努めましょう。
希望する派遣社員は1人のみですが、職場見学に数名来ていただくことは可能ですか?
希望する派遣社員が1人のみの場合は、派遣先企業が特定する行為とみなされる可能性を考え、職場見学は1人で行われます。そもそも、職場見学は派遣社員の希望のもと行われるため、派遣先企業が実施依頼を行うことはできません。
職場見学のときに直接、派遣社員に退職理由や志望動機、スキルなどを聞くことはできますか?
派遣社員に直接さまざまな質問を行うと、選考するための特定行為とみなされる可能性があるため、避けたほうがよいでしょう。
過去には、「派遣先企業に職場見学に行ったら、担当者に過去の職歴や経験を質問され、翌日に派遣会社から派遣契約が取れなかったと連絡があった」といった、特定行為による苦情が派遣社員から発生したケースもあります。
職場見学の際には、職場や業務内容の説明にとどめ、派遣社員には「何か聞きたいことはないか」くらいの質問にしておくことが重要です。
まとめ
派遣特定行為とは、派遣先企業が派遣会社から紹介された派遣社員に対して行う面接や選考など、派遣社員を特定する行為のことです。労働者派遣法によって禁止されています。
知らずに抵触してしまうと、行政指導の対象となる、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されるなどのリスクが生じます。
不安な場合は、派遣会社と積極的にコミュニケーションを取り、行為に問題がないか確認しながら進めることが重要です。
その採用、スマートにしませんか?
従来の方法では、採用を成功できない時代に入っています。-
☑労働力人口が、構造的に減少している
☑有効求人倍率は、増加の一途をたどっている
☑中小企業の求人倍率は、大手企業の15倍に
監修者
緒方瑛利(ロームテック代表)
プロフィール
1989年北海道むかわ町生まれ。民間企業に入社後、総務・IR広報業務に従事したのち経済団体に転職。融資や創業相談、労働保険事務組合を担当し2019年に社会保険労務士試験に合格。2020年にITに強い社労士事務所としてロームテックを開業。社労士向けのエクセルセミナーや労働保険社会保険に関する情報を発信している。