- 人材派遣の基本
派遣契約を更新しない場合の5つのポイント|企業側に求められる対応について
「派遣契約を更新しない」と決めた場合、派遣会社へは少なくとも30日前までに連絡が必要です。適切な手続きや配慮すべき事項を知らないまま対応すると、思わぬトラブルや法的リスクを招く可能性があります。
長期間の契約更新を繰り返してきた場合、雇止め法理(有期労働契約の雇い止めが無効になるための一定の条件を定めたルール)が適用されることもあるでしょう。
本記事では、派遣契約を更新しない場合に企業側が知っておくべき5つの重要ポイントを、法的根拠や具体的な対応例とともに詳しく解説します。
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目次
派遣契約を「更新しない」と決めた際の企業側の対応
派遣契約を更新しない判断をした場合、契約終了による派遣社員とのトラブルを防ぐためにも、適切な手続きを実施することが重要です。
特に重要なポイントは以下の5点です。
- 契約更新しない理由の整理と法的根拠の確認
- 派遣会社への通知義務とタイミング
- 派遣社員への説明
- 雇止め理由証明書への対応
- トラブル回避と円滑な契約終了に向けた配慮
ポイント1:契約更新しない理由の整理と法的根拠の確認
派遣契約を更新しない判断をする際は、まず理由を明確に整理し、法的根拠を確認することが重要です。契約更新の判断には、労働者派遣法や労働契約法における「雇止め」のルールが関係してきます。
労働者派遣法・労働契約法における「雇止め」の原則と例外
派遣契約における「雇止め」とは、契約期間満了時に更新せずに終了させることです。原則として有期労働契約は期間満了により自動的に終了しますが、一定の条件下では例外が適用されます。
| 原則 | 例外(雇止め制限) |
| ・有期労働契約は契約期間の満了により終了 ・自動更新はなく、更新には双方の合意が必要 | ・更新回数が3回以上または雇用期間が1年を超える場合、30日前までの予告義務が発生 ・更新が繰り返され無期契約と実質的に異ならない場合、合理的な理由がなければ雇止めが認められないこともある |
派遣先企業は、雇止めを検討する際に合理的な理由を明確にし、法的リスクを最小限に抑えるための対策を講じることが重要です。特に、長期間にわたり契約を更新してきた場合は、より慎重な判断と対応が求められます。
派遣先都合による雇止めの場合の配慮義務
派遣先企業の都合で契約更新を行わない場合、法律上の配慮義務が発生します。具体的には以下の対応が求められます。
| 必要な対応 | 詳細 |
| 十分な猶予期間をもった通知 | 原則30日前までに派遣会社へ申し入れ、派遣社員に予告できるようにする |
| 明確な理由の説明 | 業務縮小や予算削減などの具体的な理由を派遣会社に明確に伝える。曖昧な説明はトラブルの原因となる |
| 就業機会確保への協力 | 可能であれば、社内の別部署での就業機会を検討する、関連会社を派遣会社に紹介するなどの協力が望ましい |
| 円滑な引き継ぎ体制の構築 | 業務の引き継ぎ期間を十分に設け、派遣社員が不利益を被らないよう配慮 |
これらの配慮を行うと、派遣社員の次の就業先確保を支援し、トラブルを未然に防ぐことができます。
派遣社員が契約更新を希望しない場合の確認事項
派遣社員側から契約更新を希望しない旨の申し出があった場合も、以下のようにいくつかの確認事項があります。
- 本人の意思による契約終了であることの書面での確認
- 退職理由(転職、家庭の事情など)の把握
- 退職意思の撤回可能期間の設定
特に重要なのは、本人の自由意思による決定であることを確実に記録しておくことです。後日のトラブル防止のため、「自己都合による契約終了確認書」などの書面を取り交わすのがよいでしょう。
また、派遣社員が契約終了を申し出た背景に、職場環境の問題や人間関係のトラブルがないかを確認することも大切です。表面上は自己都合でも、実質的には職場環境が原因である場合、今後の人材確保や職場改善のための貴重な情報となります。
ポイント2:派遣会社への通知義務とタイミング
派遣契約を更新しない場合、派遣先企業には派遣会社への通知義務があります。この通知は「相当の猶予期間」をもって行う必要があり、具体的には以下の期日を守ることが重要です。
- 原則:少なくとも契約終了の30日前までに通知
- 猶予期間がそれよりも短い場合:その不足日数分の賃金相当額を派遣会社に支払う義務が生じる
通知が遅れると、派遣社員の次の就業先の確保が難しくなるだけでなく、派遣会社との信頼関係にも影響します。
また、派遣会社から求められた場合は、契約を更新しない理由を明示する必要があります。計画的かつ誠実な対応を心がけ、円滑な契約終了に努めましょう。
ポイント3:派遣社員への説明
派遣契約を更新しない場合、派遣社員への説明は派遣会社を通じて行われます。トラブルにつながらないよう最初に直接派遣社員に伝えることは避け、まずは派遣会社に連絡しましょう。
誠実かつ丁寧なコミュニケーションを心掛け、可能な範囲で具体的な理由の説明と疑問や不安への対応を意識することが大切です。
派遣契約を更新しない場合の伝え方
派遣契約を更新しない場合、基本的には派遣会社から派遣社員へ伝えてもらいます。そのため、まずは派遣会社に対し、具体的な事実に基づいて理由を説明しましょう。
一般的に、派遣契約を更新しない場合には派遣会社へ書類で通知します。契約終了の通知に関する書式については法律で定められていませんが、解約の対象となる労働者派遣契約の契約日と契約内容、契約解除日、契約解除理由を記載して提出します。
仮に派遣社員から契約終了についての話があった場合には、疑問や不安へ対応できるよう誠実なコミュニケーションを心がけることが大切です。
伝える際の具体的な例文(派遣会社向け・派遣社員向け)
以下に派遣契約を更新しない場合の具体的な例文をご紹介します。
【派遣会社向け】
| 貴社派遣スタッフの○○様について、誠に残念ながら [ 契約満了日 ] をもって契約更新を見送らせていただくことになりました。理由は [ 具体的な業務上の理由 ] によるものです。本件については貴社から○○様へご説明いただきますようお願い申し上げます。なお、引き継ぎ期間の設定など、円滑な契約終了に向けてご相談させていただければ幸いです。 |
派遣契約を更新しない場合、基本的には派遣会社から派遣社員へ伝えてもらいますが、派遣先企業から派遣社員に話すときには、以下のように伝えるのがおすすめです。
【派遣社員向け】
| ○○さん、いつもお仕事お疲れ様です。本日は契約更新について話し合いたいことがあります。誠に残念ながら、次回の契約更新が難しい状況となりました。理由としては、[ プロジェクト完了 / 業務縮小 / 組織再編など具体的な理由 ] があります。これまでの○○さんの貢献に心より感謝申し上げます。引き継ぎや今後のキャリアについても、可能な範囲でサポートさせていただきたいと考えております。 |
契約更新をしない旨を派遣社員に伝える際は、配慮ある言葉選びが重要です。伝える際は、必ず派遣会社との連携を図り、誠意をもって説明することが望ましいでしょう。
ポイント4:雇止め理由証明書への対応
派遣契約を更新しない場合、派遣社員から「契約が更新されない理由を教えてほしい」という請求があると、派遣会社は雇止め理由証明書を発行する法的義務があります。派遣先企業は、この証明書発行のプロセスに協力することが重要です。
発行義務と請求があった場合の対応
雇止め理由証明書は派遣会社が発行するものであり、派遣先企業は派遣会社に対して適切な情報提供が求められます。
派遣先企業としての対応ポイントは、以下のとおりです。
- 派遣会社から雇止め理由についての問い合わせがあった場合は、具体的かつ客観的な理由を提示する
- 業務量減少や組織変更など、合理的な理由を明確に伝える
- 個人の能力や態度を理由とする場合は、具体的な事実に基づいた説明ができるよう記録を残しておく
派遣社員との無用なトラブルを避けるためにも、契約更新をしない理由について派遣会社と認識を合わせておくことが大切です。
主な記載内容と注意点
雇止め理由証明書は派遣会社が作成する文書ですが、派遣先企業も記載内容を把握しておくと、スムーズな情報共有が可能になります。主な記載内容は、契約更新をしない具体的な理由です。
例えば、以下の内容が挙げられます。
- 業務量の減少
- プロジェクト終了
- 組織再編などの経営上の理由
- 勤務態度や能力に関する事項(該当する場合)
注意すべきポイントとして、曖昧な表現や感情的な言葉は避けましょう。事実に基づいた客観的な理由を記載し、契約締結時に示した「契約更新の判断基準」と一貫性をもたせることが大切です。
ポイント5:トラブル回避と円滑な契約終了に向けた配慮
派遣契約を更新しない場合でも、円滑な業務引継ぎと良好な関係維持が重要です。引継ぎ期間の設定と協力体制を構築し、派遣社員の次のステップへも配慮しましょう。
引き継ぎ期間の設定と協力体制
契約更新をしないと決定した場合でも、業務の引き継ぎ期間を適切に設けると円滑な契約終了につながります。引き継ぎをスムーズに行うために、以下のポイントを押さえましょう。
| ポイント | 詳細 |
| 引き継ぎスケジュールの明確化 | 契約終了日から逆算して、段階的な引き継ぎ計画を立てる。特に複雑な業務を長期間依頼していた場合、余裕をもったスケジュールが必要 |
| 引き継ぎ資料の作成依頼 | 派遣社員に対して、業務マニュアルや手順書などの作成を依頼し、後任者が参照できるようにする |
| 引き継ぎ相手の確保 | 後任者が決まっている場合は直接引き継ぎができるよう調整し、未定の場合は社内スタッフが一時的に引き継ぎを受ける体制を整える |
引き継ぎ期間中は派遣社員のモチベーション維持にも配慮し、感謝の意を伝えながら協力を仰ぐことが大切です。
派遣社員の次のステップへの配慮(相談窓口など)
契約終了後の派遣社員の将来に配慮することも、円滑な契約終了には欠かせません。具体的には、キャリア相談窓口の案内やスキルアップ支援情報の共有などの支援が効果的です。
これらの配慮は法的義務ではありませんが、誠意ある対応は企業イメージの向上につながり、将来的な人材確保にもプラスとなります。派遣社員が次のキャリアに不安なく移行できるよう、できる範囲でのサポートを心がけましょう。
派遣契約の更新に関する法的ルールと知っておくべきこと
派遣契約を適切に更新・終了するためには、いくつかの重要な法的ルールを押さえておく必要があります。
労働者派遣法および労働契約法に基づくこれらのルールは、派遣社員の雇用安定と適正な労働環境を確保するために設けられています。
労働者派遣法における「3年ルール」
労働者派遣法の「3年ルール」とは、派遣社員の受入期間を制限する規定です。このルールには2種類の期間制限があります。
| 3年ルールの考え方 | 概要 |
| 事業所単位の期間制限 | 同一事業所での派遣社員の受け入れは原則3年まで。3年を超える場合は、事前に過半数労働組合等への意見聴取が必要 |
| 個人単位の期間制限 | 同一の派遣社員を同じ組織単位(課やグループなど)で受け入れられるのは3年まで。こちらは延長ができない |
3年を超えて同じ派遣社員に継続して働いてもらうには、以下の対応が必要です。
- 派遣先企業が直接雇用する
- 派遣会社が派遣社員を無期雇用する
- 事業所単位の期間制限を延長したうえで、まったく異なる部署へ異動してもらう
3年ルール違反の場合、「労働契約申込みみなし制度」が適用され、派遣先企業は派遣社員に対して直接雇用の申込みをしたとみなされます。
なお、60歳以上の派遣社員や無期雇用派遣社員などは、この3年ルールの適用対象外です。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
労働契約法における「無期転換ルール」
無期転換ルールとは、有期雇用労働者の雇用契約期間が5年を超えて契約更新となるときに、労働者からの申し出のもと無期雇用に転換する規則で、「5年ルール」とも呼ばれます。
契約期間が1年であれば、無期転換を申し込める権利(無期転換申込権)は5回目の更新後の1年間、契約期間が3年であれば初回更新後の3年間に生じます。

引用:厚生労働省『無期転換ルールについて』
申し込みはその契約期間の初日から末日までの間にでき、該当の派遣社員から意思の表明があった場合、雇用主である派遣会社は断れません。無期契約は申し込みをした時点で成立し、実際に変更となるのは有期労働契約が満了となる日の翌日からです。
なお、無期転換後は「3年ルール」の適用対象外となるため、派遣先企業で3年を超えて受け入れられるようになります。ただし、無期雇用派遣となることで派遣料金が変更される可能性があるため、派遣会社と事前協議を行うことが重要です。
詳しくは、以下の記事で詳しく解説しています。
雇止め法理
雇止め法理は、有期雇用契約の更新拒否(雇止め)が無効となるケースを定めた法理です。労働契約法19条で規定されています。
(有期労働契約の更新等)
第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
引用:e-Gov法令検索『労働契約法』
特に、以下のような場合、雇止めが無効となる可能性が高まります。
- 契約が繰り返し更新され、実質的に無期雇用と変わらない状態になっている
- 契約更新への合理的な期待が労働者に生じている
- 雇止めの理由に客観的・合理的な理由がない
契約更新を繰り返してきた場合、派遣社員に「次も更新されるだろう」という合理的期待が生じやすく、突然の雇止めは無効とされるリスクが高まります。
特に更新回数が多い場合や、「業務が続く限り更新する」などの言質を与えていた場合は、合理的かつ客観的な理由なく雇止めを行うとトラブルに発展する可能性があるため注意が必要です。
契約を更新しない場合の準備期間と一般的な流れ
派遣契約を更新しない場合の手続きは、計画的に進める必要があります。以下が標準的なスケジュールです。
- 契約満了の約1.5~2ヶ月前:派遣先企業で契約を更新しないことを社内決定し、派遣会社に事前に伝えておく
- 契約満了の約1ヶ月前まで:派遣先企業から派遣会社へ正式に「更新しない」旨を書面で通知、派遣会社から派遣社員へ連絡
- 契約満了の2~3週間前:引き継ぎスケジュールの確定と実施
- 契約満了の1週間前:最終確認、備品返却などの手続き
- 契約満了日:最終日の業務完了確認と挨拶
契約更新しないと決定した場合は、法定の30日前通知を厳守するだけでなく、できるだけ早く派遣会社に連絡することが重要です。
特に大規模な業務や専門性の高い職種では、引き継ぎや後任者確保に時間がかかるため、2~3ヶ月前から準備を始めるのがおすすめです。
また、長期間契約を更新してきた派遣社員の場合、雇止め法理が適用される可能性も考慮し、より慎重な対応と十分な準備期間を設けるべきでしょう。
まとめ:円滑な契約終了と良好な関係維持のために
派遣契約を更新しない決断をした場合、円滑な契約終了と良好な関係維持が重要です。企業は以下のポイントを実践しましょう。
- 決定後は速やかに派遣会社へ連絡し、法定期間(30日前)より余裕をもった通知を心がける
- 派遣社員への説明は派遣会社を通じて行い、直接的な雇止め通告は避ける
- 後任者への引き継ぎ期間を十分に確保し、業務の継続性に配慮する
- 派遣社員から雇止め理由証明書の発行請求があった場合に備え、客観的かつ合理的な理由を派遣会社に伝えておく
適切な手続きと配慮ある対応は、トラブル防止だけでなく、企業としての社会的責任を果たすことにもなります。法的義務を遵守しながらも、人間関係に配慮した契約終了を実現しましょう。
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