- 人材派遣の基本
派遣社員の有給休暇条件と日数|トラブル回避のコツも解説
派遣社員にも有給休暇は発生しますが、派遣先企業がその取り扱いについて正確に把握できていなければ、将来的に派遣社員の定着率低下や労務問題に発展してしまう可能性があります。
そのため、派遣先企業は、法的要件や管理方法、派遣会社との役割分担について、正確に理解しておかなければなりません。
本記事では、派遣社員の有給休暇について、基礎知識から条件・日数、状況別の取り扱い、トラブル回避のポイントまで詳しく解説します。
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目次
派遣社員の有給休暇に関する基礎知識
年次有給休暇(以下、有給休暇といいます)は、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るため、また、ゆとりある生活の実現のために労働基準法で定められています。
派遣社員の有給休暇は、派遣会社が付与します。派遣先企業による時季変更はできません。
有給休暇の依頼が派遣会社から来た場合には、派遣先企業は、その日に該当する派遣社員を休ませられるよう、勤務体制を調整する必要があります。
まずは、派遣社員の有給休暇に関する基礎知識を解説します。
「年5日の年次有給休暇の確実な取得」の義務化
2019年4月に行われた労働基準法の改正により、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、最低でも1年のうち5日間は時季を指定して有給休暇を取得させることが義務付けられました。
これは、派遣社員も該当し、すべての企業において適用されます。
有給休暇を与えるのは派遣会社
派遣社員の雇用主はあくまで派遣会社であり、有給休暇の付与や手続きも派遣会社が行います。そのため、派遣社員が有給休暇を取得したい場合には、派遣先企業ではなく、派遣会社に対して申請する流れになります。
派遣先企業による時季変更はできない
派遣社員の有給休暇は、派遣元企業である派遣会社が承認するものであり、派遣先企業による時季変更はできません。なかには、派遣先企業の繁忙期に、有給休暇を取得したいと申し出る派遣社員もいるでしょう。
しかし、派遣社員の有給休暇に対して時季変更できるのは、派遣会社の事業運営を妨げる場合のみとされています。
派遣先企業の事情は考慮されないため、こういった場合には代替要員の派遣を要請するなどの方法で対処する必要があります。
有給休暇が発生する派遣社員の条件と日数
法律で定められた条件を満たせば、正社員と同じく派遣社員にも有給休暇が付与されます。
有給休暇の手続きは派遣会社が行いますが、発生する派遣社員の条件や日数を把握しておくと、休暇依頼を予測しやすくなるでしょう。
派遣社員の有給休暇の取得条件と、日数について解説します。
取得条件

有給休暇は事業規模や職種に関わらず、該当するすべての派遣社員が付与の対象となります。
有給休暇が発生するのは、以下の条件を満たしている派遣社員です。
- 派遣会社の雇入れ日から起算して6ヶ月間継続勤務している
- 全労働日の8割以上出勤している
起算日は派遣会社の雇入れ日であり、派遣先企業の派遣受け入れ開始日ではないため注意しましょう。以降は、継続勤務1年ごとに、前1年間の全労働日の8割以上出勤した派遣社員に有給休暇が付与されます。
なお、派遣会社によっては、入社時など6ヶ月を待たず有給休暇を付与している場合もあります。
日数
派遣社員の有給休暇は、週の所定労働時間や所定労働日数(週以外の期間で労働日数が定められている場合は1年間の所定労働日数)、雇入れ日から起算した継続勤務期間で決まります。
継続勤務期間ごとの年次有給休暇の日数は、以下のとおりです。

引用:厚生労働省『派遣労働者の労働条件・安全衛生の確保のために』
例えば、派遣会社の雇入れ日から起算して6ヶ月経過している派遣社員が、1日6時間、週4日勤務している場合には、その年度の有給休暇は7日分付与されます。
派遣社員の有給休暇取得の現状
厚生労働省による「令和4年 派遣労働者実態調査」によると、2022年において、派遣社員で「有給休暇がある」と答えた人は93.1%でした。
付与日数で最も多いのは15日以上(51.6%)で、次いで10~14日(39.4%)です。取得日数では、5~9日(37.0%)が最も多く、10~14日(25.1%)が続きました。
取得率では、40~60%未満(30.1%)が多く、次いで80%以上(22.7%)となっています。

【状況別】派遣社員の有給休暇の取り扱い
派遣社員の有給休暇は、雇用主である派遣会社が与えるものですが、派遣先企業での就業期間も加算されます。
状況に応じて適切な対応が必要となるため、具体的なケース別に有給休暇の取り扱いについて把握しておきましょう。
未消化有給休暇
有給休暇の未使用分は、翌年度に限り、繰り越しが可能です(時効2年)。
あくまで、勤続年数は派遣先企業ではなく、派遣会社で考えます。取り扱うのは派遣会社であるため、派遣先企業は調整依頼が来た際に対応する流れになります。
派遣先変更時の有給休暇
派遣社員が他の企業と契約満了となった後に自社に来た場合でも、有給休暇は派遣会社における通算した勤続年数により決まります。
反対に、自社での派遣の受け入れ期間が終了しても、有給休暇は派遣社員と派遣会社との間で発生している状態です。
自社との契約が満了となった後にも派遣社員と派遣会社の契約が続く場合には、次の派遣先企業に繰り越される仕組みになっています。
ただし、有給休暇の取得に関するトラブルを防ぐために、繰り越しについて、就業規則で以下のように規定を設けている派遣会社もあります。

引用:厚生労働省『派遣先での勤務態度、服務規定の遵守』
上記の表記がある派遣会社では、有期雇用契約が終了し、次の派遣先へ移る前に指定された月数が経過すると、残っていた有給休暇がリセットされるようになっています。
例えば、就業規則に「次の雇用契約を締結するまでの期間が1ヶ月」とあった場合には、その期間を超えると有給休暇が消滅することになります。

上図でみた場合、Aさんは6ヶ月の雇用契約期間後、有給が付与されます。
Bさんは4ヶ月で雇用契約期間が一旦区切られていますが、契約更新を行い引き続き雇用されているため、契約更新から2ヶ月経つと、有給付与の対象です。
一方、Cさんは雇用契約期間2ヶ月の後、2ヶ月もの間、雇用契約を結んでいませんでした。このとき、派遣会社の就業規則でこの空白期間について「1ヶ月」などと規定が設けられていた場合、有給付与の対象にはなりません。
直接雇用への切り替え時の有給休暇
基本的には、直接雇用は派遣先企業と雇用契約を締結することになるため、これまでの有給休暇はリセットされ、新たにカウントされるようになります。
しかし、企業側は独自に、派遣社員だったときに残っていた有給を引き継ぐといった配慮をしているケースもあります。直接雇用後すぐに有給休暇を付与する、勤続年数に派遣期間の分も含めるなどの対応も可能です。
優秀な人材を確保するにあたって、社員のモチベーションを高めるためにも、派遣期間中の勤務を考慮した対応をとることは効果的な方法といえます。
派遣社員の直接雇用については、以下の記事もご覧ください。
派遣社員の有給休暇管理には、有給休暇取得時の代替要員の確保や、繁忙期における有給休暇の調整など、さまざまな課題がともないます。
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派遣社員の有給休暇トラブルを回避するポイント

派遣トラブルとして、派遣社員が「派遣先企業に有給休暇を受理されなかった」と不満を感じるケースがあります。
その主な原因は、派遣社員が届出の手順をよく理解していないことです。
トラブルを回避するポイントを解説しますので、対策を講じ、円滑な派遣活用につなげましょう。
労働条件通知書や就業条件明示書に派遣先責任者と派遣元(派遣会社)責任者を明記する
有給休暇に関するトラブルを避けるためには、労働条件通知書や就業条件明示書に派遣先責任者と派遣元(派遣会社)責任者、それぞれの情報を具体的に記載しておくとよいでしょう。
派遣社員の場合、派遣会社と派遣先企業のどちらに、どのような責任があるのかが曖昧になりやすくなります。どこに相談すべきかを派遣社員が把握できるよう、それぞれの責任者について、以下の項目を明記しておく必要があります。
- 氏名
- 所属部署名
- 役職名
- 電話番号など
また、派遣元(派遣会社)責任者と密に連携しておくと、よりスムーズな問題解決につなげられます。
派遣先責任者の詳細は、以下の記事で詳しく解説しています。
就業規則へ届出手順を明記する
就業規則は、会社と従業員との間の重要なルールを定めたものであり、有給休暇のような労働者の権利に直接関わる事項については、記載しておくことが重要です。
派遣社員が有給休暇を取得するための手順を、明確に記載しておきましょう。
誰に、いつまでに伝えるのか、明確な手続き方法がわかると、派遣社員はスムーズに有給休暇を申請できます。派遣先企業との間で有給休暇の取得に関するトラブルが発生するリスクも低減できるでしょう。
有給取得フローを派遣会社と確認する
有給休暇の取得に際し、基本的には派遣会社から派遣先企業へ調整連絡が入る流れであるものの、派遣社員が直接、派遣先企業に申請してくる場合もあります。
トラブル回避のために、派遣先企業は、あらかじめ派遣会社と有給取得フローを確認しておくとよいでしょう。
多くの派遣会社では、派遣社員専用のWebサイトで「有給休暇を申請するか否か」のチェック項目を作るなど、派遣社員が有給休暇を申請できるようなシステムを導入しています。その場合、派遣社員は正しく申請したうえで、派遣先企業に伝えています。
とはいえ、万が一、正しく申請していなかった場合、派遣社員は有給休暇だと認識しているにも関わらず適切に処理されず、トラブルに発展してしまうかもしれません。
派遣社員から申請があった場合は、派遣会社に伝えているか確認してみてください。
派遣社員の有給休暇の取得状況について確認しておく
派遣先企業は、派遣会社に対し、派遣社員の有給休暇の付与日と残余日数を確認しておくとよいでしょう。把握しておくことで、有給休暇に対応するための目安になります。
自社の社員と同等な休暇待遇を提供する
派遣先企業は、派遣社員に対し、自社の社員と同等の休暇待遇を提供しなければなりません。
厚生労働省では、同一企業・団体における、いわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指す「同一労働同一賃金」という取り組みを進めています。
自社の社員と派遣社員との間で、有給休暇を取得する機会や日数に待遇差を生まないよう注意が必要です。
相談しやすい環境づくりを行う
派遣社員にとって、有給休暇の取得も含め、さまざまな疑問や不安を相談しやすい環境を作ることは、企業側の重要な役割です。
良好なコミュニケーションは、有給休暇トラブルの回避だけでなく、派遣社員のモチベーション維持にもつながります。派遣社員が有給休暇を申請しやすいよう、繁忙期でも相談しやすい雰囲気づくりを心がけましょう。
また、派遣先企業は派遣社員に対して、自社の社員と同等な休暇待遇を提供することが求められています。不合理な待遇をしないよう、社内で統一した対応をすることが重要です。
派遣社員の有給休暇に関してよくある質問
派遣社員の有給休暇の取り扱いについては、さまざまな質問が聞かれます。
この章では、派遣先企業が有給休暇を拒否するのは違法になるのか、年5日取得させる義務は派遣先企業と派遣会社どちらが負うのかの2点を解説します。
派遣先企業が有給休暇を拒否するのは違法ですか?
派遣社員の有給休暇の取得希望に対し、不当な拒否をしてしまうと、労働基準法違反になる可能性があります。
派遣社員の有給休暇に対して時季変更できるのは、派遣会社の事業運営を妨げる場合のみです。
参考:扶養内で働くパートも有給休暇が取れる?給料計算の方法や取得の期限を解説!
有給休暇を年5日取得させる義務は、派遣先企業と派遣会社どちらが負いますか?
有給休暇を年5日取得させる義務は、雇用関係にある派遣会社が責任を負います。
派遣先企業は、調整依頼が来た場合に対応しましょう。
まとめ
派遣社員の有給休暇を付与し、手続きを行うのは派遣会社です。
繁忙期であっても、派遣先企業の事情による時季変更はできないため、そのような場合には代替要員の派遣を依頼するなどで対策を講じる必要があります。
多くの派遣会社では、派遣社員が有給休暇を申請しやすいシステムを導入しています。派遣社員から直接、有給休暇の取得日を伝えられた際には、派遣会社に申請しているかどうかを確認してみるとよいでしょう。
有給休暇で生じるトラブルを避けるためには、派遣社員が正しくフローを把握できるよう、労働条件通知書や就業条件明示書、就業規則へ記載する方法があります。派遣会社とも連携しておくと、スムーズに対応しやすくなります。
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監修者
村井真子(村井社会保険労務士事務所)
プロフィール
社会保険労務士・キャリアコンサルタント。経営学修士(MBA)。家業の総合士業事務所にて実務経験を積み、2014年愛知県豊橋市にて開業。LGBTQアライ。セミナー講師、コラム執筆にも取り組んでおり、現在労務顧問など160社以上の関与先を持つ。著書に『職場問題グレーゾーンのトリセツ』。