- 人材派遣の基本
派遣先管理台帳は義務?作成・保管期間や違反時のリスクを解説
派遣社員を雇用する企業にとって、労働者派遣法に基づいた適切な労務管理は必須であり、なかでも重要なのが「派遣先管理台帳」です。
派遣先管理台帳は、派遣先企業が派遣社員の就業状況を記録する書類であり、労働者派遣法で作成が義務付けられています。
本記事では、派遣先管理台帳の作成義務の詳細や具体的な作成方法、保管期間、違反した場合のリスクについて解説します。
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派遣先管理台帳とは
派遣先管理台帳とは、派遣社員を受け入れている企業が、派遣社員一人ひとりの就業状況(労働日や労働時間、業務内容など)を記録する書類です。
派遣社員の労働条件を明確にして適正な労働環境を確保し、就業状況を派遣元である派遣会社が把握するために、労働者派遣法で派遣先企業が作成し、保管するよう義務付けられています。
内容を派遣会社と共有することでも、より適切な雇用管理を実現できるでしょう。
この章では、派遣先管理台帳に関する法的根拠や義務、混同しやすい派遣元管理台帳との違いを解説します。
法的根拠と作成義務について
派遣先管理台帳は、労働者派遣法で、派遣先企業が派遣社員を受け入れる際に、事業所ごとに作成・保管が義務付けられている書類です。
第四十二条 派遣先は、厚生労働省令で定めるところにより、派遣就業に関し、派遣先管理台帳を作成し、当該台帳に派遣労働者ごとに次に掲げる事項を記載しなければならない。
引用:e-Gov法令検索『労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律』
派遣社員の氏名や就業日、労働時間、業務内容といった情報を詳細に記録することで、派遣先企業は派遣社員の就業実態を把握でき、派遣労働者の保護や適切な労務管理につなげられるようになります。
派遣先管理台帳の作成が義務ではないケース
派遣先企業が直接雇用している従業員に、受け入れている派遣社員を加えた人数が5人以下である場合には、派遣先管理台帳の作成義務は免除されます。
ただし、派遣社員の契約内容や勤務状態、業務内容、進捗状態などの把握は、派遣先企業で労務管理するうえで重要であり、作成したほうが適切な運用につなげられます。
派遣元管理台帳との違い
派遣元管理台帳は、派遣会社が担当する台帳です。
派遣社員の保護と雇用の安定を図るために適正な雇用管理ができるよう、労働者派遣法で、派遣会社が事業所ごとに作成・保管するよう義務付けられています。
派遣先管理台帳の作成方法
派遣先管理台帳は、派遣先企業が事業所ごとに、派遣社員一人ひとりに対して作成します。派遣先企業の社員と派遣社員が合計で5人を超える事業所は、必ず作成しなければなりません。
この章では、派遣先管理台帳に記載すべき18項目とフォーマット、記載例を紹介します。
派遣先管理台帳18の記載項目
派遣先管理台帳の主な記載項目は、以下のとおりです。
記載項目 | 記載内容 | 記載例 | 派遣会社への通知事項 |
1. 派遣社員の氏名 | 派遣会社からの情報を基に記載 | ○○ ○○ | ○ |
2. 派遣会社の名称または派遣元事業主の氏名 | 派遣会社の企業名 | ○○株式会社 | |
3. 派遣会社の事業所の名称 | オフィスや支店 | ○○営業所 | |
4. 派遣会社の所在地 | 住所、電話番号 | 〒000-0000 ○○県○○市… Tel:000-0000-0000 | |
5. 協定対象派遣労働者かどうか | 派遣会社からの情報を基に記載 ・労使協定方式→協定対象労働者である ・派遣先均等・均衡方式→協定対象労働者ではない | 協定対象労働者 | |
6. 無期雇用派遣労働者と有期雇用派遣労働者どちらなのか | 派遣会社からの情報を基に記載 | 有期雇用 | |
7. 派遣就業をした日 | 実際に派遣社員が就業した日の実績 | ○○年○○月○○日 | ○ |
8. 派遣就業をした日ごとの始業および終業の時刻、休憩時間 | 実際の始業・終業時刻と休憩時間の実績 | ○○月○○日(○) 就業時間 9:00~18:00 休憩時間12:00~13:00 | ○ |
9. 従事した業務の種類 | 詳細に記載 ※令4条第1項に該当する業務である場合には、当該号番号を記載 | パーソナルコンピュータの操作によるプレゼンテーション用資料、業績管理資料、会議用資料等の作成業務 | ○ |
10. 派遣社員が従事する業務に伴う責任の程度 | 派遣社員に付与されている権限の範囲や程度 | 役職なし | ○ |
11. 派遣社員が従事した事業所の名称と所在地その他派遣就業をした場所、組織単位 | 実働した事業所の名称と所在地 | ○○株式会社 ○○支店 ○○課 | ○ |
12. 派遣社員から受けた苦情の処理に関する事項 | 苦情を受けた年月日、苦情の内容、苦情の処理状況 ※派遣会社にも通知 | 受付日:○月○日 苦情内容: 派遣先において社員食堂の利用に関して便宜が図られていないとのこと てん末:派遣先に対し、法の趣旨を説明。以後、派遣先の他の労働者と同様に、派遣先の施設が利用可能となる | |
13. 派遣元責任者に関する事項 | 役職、氏名、連絡先 | 派遣事業運営部 事業係長 ○○ ○○ Tel:000-0000-0000 | |
14. 派遣先責任者に関する事項 | 役職、氏名、連絡先 | ○○部 ○○課 係長 ○○ ○○ Tel:000-0000-0000 | |
15. 紹介予定派遣に関する事項(紹介予定派遣のみ) | 紹介予定派遣である旨、派遣社員の特定行為を行った場合の内容と選考基準、採用内定結果 | ||
16. 教育訓練を行った日時と内容 | 職場内で行うOJTや職場外で行うOFF-JTの実施日時と研修内容 | ○○年○月○日 入職時に社内で通常使用するPC等を利用しての基礎的訓練の実施 | |
17. 派遣可能期間の制限を受けない業務に係る労働者派遣に関する事項(該当する業務のみ) | ・60歳以上か ・有期プロジェクトへの従事か ・日数が限定されている業務かと、1ヶ月における業務日数 ・出産、育児、介護等で休業する労働者の代替要因であるか | ||
18. 派遣社員に係る健康保険・厚生年金保険・雇用保険の被保険者資格取得届の提出の有無および提出がない場合の具体的な理由 | 派遣会社からの情報を基に記載 | 健康保険:無 厚生年金保険:無 雇用保険:有 労災保険:有 |
「従事した業務の種類」の令4条第1項に該当する業務とは
「従事した業務の種類」における令4条第1項に該当する業務とは、以下の19業務を指します。
- 情報処理システム開発関係
- 機械設計関係
- 機器操作関係
- 通訳、翻訳、速記関係
- 秘書関係
- ファイリング関係
- 調査関係
- 財務関係
- 貿易関係
- デモンストレーション関係
- 添乗関係
- 受付・案内関係
- 研究開発関係
- 事業の実施体制の企画、立案関係
- 書籍等の制作・編集関係
- 広告デザイン関係
- OAインストラクション関係
- セールスエンジニアの営業、金融商品の営業関係
- 看護師(社会福祉施設等に限る)
これらの業務を派遣社員に依頼する場合には、該当する上記の番号を派遣先管理台帳に記載する必要があります。
派遣先責任者とは
派遣先責任者とは、労働者派遣法で派遣先企業が選任することを義務付けられている、派遣社員の適正な就業を確保するための担当者です。
派遣先管理台帳の作成、記録および保存の他、以下の役割をもちます。

基本的には、派遣社員を1人でも受け入れる場合は、必ず1人以上の派遣先責任者を選任する必要があります。
詳しくは、以下の記事も参考にしてください。
厚生労働省によるフォーマットと記載例
派遣先管理台帳の作成にあたって書式の指定はありませんが、厚生労働省がフォーマットと記載例を公開しています。法令遵守の観点からも、これらの資料を活用するのがおすすめです。
厚生労働省のフォーマットは、Excelファイルでダウンロードできます。
このファイルには記載例が書かれており、具体的な記載方法を参考にしながら、書き換えて台帳を作成できます。
また、厚生労働省はPDFファイルでも記載例を紹介しています。
フォーマットは、派遣会社でも用意している場合があるため、依頼して入手するのも一つの方法です。入手したフォーマットで不明な点は、派遣会社に確認してもよいでしょう。
派遣会社(派遣元)への通知が必要な6項目
労働者派遣法により、派遣先企業は作成した派遣先管理台帳の内容のうち、以下の6項目について派遣会社へ通知することが義務付けられています。
- 派遣労働者の氏名
- 派遣就業をした日
- 派遣就業をした日ごとの始業および終業の時刻と休憩した時間
- 従事した業務の種類
- 派遣社員が従事する業務に伴う責任の程度
- 派遣社員が従事した事業所の名称と所在地その他派遣就業をした場所、組織単位
第四十二条
3 派遣先は、厚生労働省令で定めるところにより、第一項各号(第四号を除く。)に掲げる事項を派遣元事業主に通知しなければならない。引用:e-Gov法令検索『労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律』
これらの情報は、派遣会社が派遣社員の雇用管理を適切に行うために重要な項目であり、1ヶ月に1回以上、派遣社員ごとに書面やFAX、電子メールいずれかの方法で通知しなければなりません。
また、派遣会社から依頼があった場合にも、すぐに通知する必要があります。
派遣先管理台帳の保管
派遣先管理台帳は、記載事項だけでなく、保管期間についても労働者派遣法で定められています。
派遣社員の労働条件や法令遵守の状況確認に役立てられるよう、派遣先管理台帳の法定保管期間と適切な保管方法について、正しく把握して対応していきましょう。
法定保管期間
派遣先管理台帳は、労働者派遣法で3年間の保管が義務付けられています。
第四十二条
2 派遣先は、前項の派遣先管理台帳を三年間保存しなければならない。引用:e-Gov法令検索『労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律』
保管する期間の起算日は、派遣社員の契約が終了した日です。例えば、1月1日から6月30日までの派遣契約の場合、6月30日を起算日として、そこから3年間保管します。
厚生労働省のフォーマットにもあるように、派遣先管理台帳の下部に保管期間を明記しておくと、保管時に注意喚起できるでしょう。
適切な保管方法
派遣先管理台帳は、紛失や漏洩のリスクを最小限に抑えつつ、いつでも速やかに取り出せるようにしておきましょう。
厚生労働省では、紙媒体の他、電子データでの保管も可としています。ただし、紙媒体と同様に必要なときに記載事項がすぐに明らかにできる状態であること、書面としてもすぐに提供できる状態であることを条件としています。
派遣先管理台帳に関連する法的リスクと対策
派遣先管理台帳の作成・保管は法的義務であり、違反した場合には罰則の対象となる可能性があります。主な法的リスクと対策について解説しますので、コンプライアンス遵守に役立ててください。
違反時の罰則
派遣先管理台帳を適切に作成・記載・保管・通知しなかった場合、派遣先企業は、労働者派遣法違反として、30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
厚生労働省 愛知労働局による「令和4年度労働者派遣事業等に係る指導監督状況及び令和5年度指導監督方針」では、派遣先企業に対して行った指導で最も多かったのが派遣先管理台帳でした。
2021年では指導事項の割合のうち84.4%、2022年では79.0%でした。

引用:厚生労働省 愛知労働局『令和4年度労働者派遣事業等に係る指導監督状況及び令和5年度指導監督方針』
派遣先管理台帳で指導された主な内容は、以下のとおりです。
- 派遣先管理台帳が作成されていない
- 法定項目が記載されていない(派遣就業場所の組織単位、派遣労働者が60歳以上であるか否かなど)
- 派遣会社に対し、派遣就業の状況に係る通知が適切に行われていない
派遣先管理台帳は労働局により指導される割合も高いため、派遣先企業は、適切な作成・記載・保管・通知について正しく理解し、遵守していくことが重要です。
コンプライアンス遵守のポイント
罰則や指導の対象とならないよう、派遣先企業は、派遣先管理台帳について以下のような方法で対策していきましょう。
- 記載事項の正確性を高めるために、専門家へ相談する
- 通知義務を履行できるよう、通知時期前にアラート設定しておく
- 保管期間を遵守できるよう、事務所内の重要書類用の棚にテプラなどで視覚化して保管しておく
- 電子データで保管する場合は、紛失・漏洩しないよう厳重に管理する
- 法改正へすぐに対応できるよう、派遣会社と密に情報共有しておく
できる限り対策しておくと、コンプライアンスを遵守しながら派遣を活用できます。
派遣先管理台帳に関してよくある質問
派遣先管理台帳への対応にあたり、直接雇用した場合には保管義務がどうなるのか、労働者派遣契約書で代用できるのかなど、細かな疑問も生じるでしょう。それぞれ解説しますので、正しく理解し、法令遵守に役立ててください。
派遣社員を直接雇用した場合、派遣先管理台帳の保管義務はどうなりますか?
派遣社員を直接雇用した場合でも、派遣先管理台帳は派遣社員として就業した最終日を起算日として、3年間保管します。また、直接雇用した場合は労働者名簿の作成対象です。
派遣先管理台帳の情報は、直接雇用に際して、新たな雇用契約書や労働条件通知書、労働者名簿の作成にも活用できます。これにより、スムーズな雇用形態の移行が可能になるでしょう。
派遣社員の直接雇用に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
派遣先管理台帳は労働者派遣契約書で代用できますか?
派遣先管理台帳は、原則として労働者派遣契約書で代用することはできません。
派遣先管理台帳と労働者派遣契約書は、それぞれ作成を義務付けている法律条文が異なります。派遣先管理台帳は就業状況など実績を記録するほか、法令で定められた18項目の記載が必要です。
一方、労働者派遣契約書は労働条件が定められたもので、派遣先管理台帳の項目の一部しか含まれていないため、派遣先管理台帳の代わりにはできません。
労働者派遣契約については、以下の記事も参考にしてください。
労働者派遣契約とは?業務委託契約との違いや記載事項、注意点を紹介
まとめ
派遣先企業には、労働者派遣法により、事業所ごとに派遣先管理台帳の作成・保管が義務付けられています。
記載内容は18項目あり、派遣社員ごとに正確に記載しなければなりません。さらに、その中の6項目を、派遣会社に対して1ヶ月に1回以上通知することが求められます。
保管期間は、派遣終了日を起算日として3年間です。電子データでの保管も可とされています。
これらの義務に違反すると、派遣先企業に30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。そのため、派遣先企業は派遣先管理台帳の重要性を理解したうえで、適切に作成・運用・保管していくことが重要です。
派遣先管理台帳に関して不安がある場合は、専門家や労働局に相談するのも一つの方法です。正しい理解と運用で、適切な派遣労働環境を実現しましょう。
あわせて、派遣先企業には派遣先責任者の選任も必要です。役割や選任方法などについては、以下の記事で詳しく解説しています。
人材派遣の悩みについて、お気軽にご相談ください
はじめての派遣で、こんな悩みを抱えていませんか?- 即戦力を早く、安く見つけたい
- 繁忙期の人手不足を解消したい
- ハイスキル人材を、必要な稼働量だけ確保したい
監修者
緒方瑛利(ロームテック代表)
プロフィール
1989年北海道むかわ町生まれ。民間企業に入社後、総務・IR広報業務に従事したのち経済団体に転職。融資や創業相談、労働保険事務組合を担当し2019年に社会保険労務士試験に合格。2020年にITに強い社労士事務所としてロームテックを開業。社労士向けのエクセルセミナーや労働保険社会保険に関する情報を発信している。